“寝込んでいるところに彼女がおかゆを作りに / 椎出啓”講評
“寝込んでいるところに彼女がおかゆを作りに / 椎出啓 ”講評
お題『寝込んでいるところに彼女がおかゆを作りに』に寄せられた作品についての講評です。
該当作品
講評
[ENO] 椎出さんのは、実に難しい(w
[ENO] 書かない部分でしっかり描いている
[ENO] 椎出さんの書き方は、一人称寄りの三人称というヤツで
[ENO] いわばカメラが主人公の肩に乗っているのだな
[ENO] だから、主人公の見るものと同時に主人公の独り言も聞こえる(w
[SiIdeKei] 手乗りカメラ。ぴよぴよ。
[fukaGuten] ぴよぴよ。
[ENO] ぴよぴよ
[fukaGuten] OTEちんの肩のインコ視点。OTEちんのジョークも余さず聞こえます。
[ENO] 時折寒そうに、ぶるっと身震い
[Zero2] インコが凍ってから音速より早く逃げられればあるいは
[ENO] しかし、椎出さんの書くものは見事だな
[ENO] これだけのセリフと描写で、映像が目に浮かぶ
[ENO] 特に後半の「卵焼きをめぐる箸の攻防戦」
[ENO] いわゆる「ライトノベル的描写」ではないのだな
[Kannna] @@
[Kannna] そうなんだ
[ENO] ライトノベル的描写と言うのは「目に見えるものを全部書く」という手法
[hyoudou] ライトノベル的って?
[V-zEn] ライトノベル的描写って言うのは、割と説明的なんだと思うのです。
[Zero2] ほー
[Kannna] なるる
[ENO] 読んだ人が、脳裏に映像を結びやすいように、情報を提示する
[Banyu11th] 度が過ぎると、テンポが崩れて、はてしなくくどいんだよね。
[V-zEn] パッシブなんですね。あまりこう、脳の「推測」(想像ではない)するところは使わせない。読めば簡単に絵がぱっと浮かぶくらいの「情報」を提示するわけです。
[miburo] アニメを見ている人に最適化されているのではないかと思った。
[V-zEn] #ENOさんのは違うように思うけど(笑)
[V-zEn] 某N氏は「セリフだけを追えば話の筋も状況もわかるようになっている」と言ってましたな。
[Banyu11th] 「読むマンガ」といわれるだけのことはありますw
[Banyu11th] # 「読むアニメ」と謂われたのは、あかほりさとるでしたか。
[V-zEn] #そっすね。まあそれらも技術であり才能であると思います。
[ENO] セリフだけを追ってもわかるようにするのには、二つの方法があるのだな
[ENO] 一つは、物語の構造を単純化する
[ENO] もう一つは、物語は複雑でもわかるようにセリフを練る
[V-zEn] #http://d.hatena.ne.jp/vzen/20050826#p5
[V-zEn] #参考までに。
[ENO] 俺は「セリフを研ぐ」というんだけど
[hyoudou] 状況に対する登場人物の自然な感情と生理を追っていくわけですね
[hyoudou] こんばんは
[CHOBOJA] こんばんは。
[ENO] セリフだけでもわかるように、他に間違った読み方ができないようにする
[hyoudou] 地の文は使わないほうがいいのでしょうか?
[ENO] 極端なご質問ですなあ(w
[miburo] w
[Yaduka] いっそ感嘆符だけで。
[TrickStar] !
[ENO] ケータイ小説を目指すならそれの方がいいかもしれません<地の文はいらない
[akiraani] マンガだと、セリフいっさいなし、キャラは全て木人で漫符だけでなんてお題がありましたね
[hyoudou] どっちかというと、台詞を補助的に使う性質なので
[ENO] ケータイ小説と言うのは、マンガで言えば「キャラの生首」が並んで交互に気の効いた会話を繰り返す、というものでして
[ENO] 当然背景も構図も必要ないのです
[ENO] 「誰が」「何を言った」という情報だけが与えられればいいわけで
[ENO] 実を言うと、携帯で読むマンガの中には、キャラの顔とフキダシだけを抜き出して再構成したものもあるそうです
[Zero2] へえー
[Yaduka] その形態のwebコンテンツはありますね
[V-zEn] ちと話を戻すと、椎出さんのセリフは、直接的にそれを示唆していないにも関わらずそれがわかる、というものになっているということでよろしすか。
[ENO] 知り合いのマンガ家さんが、携帯にマンガを転載されたそうだが、そのコンテンツ見たらそうなっていたそうだ
[V-zEn] #ケータイの解像度だとむべなるかな。
[V-zEn] #おもしろい技術だなあ。
[ENO] そうですね、つまりは「読み手の中にある世界へのバイパス」なのです
[ENO] わかる人には、実にストレスがない。それはそれは当然でして、自分の中にあるものにストレスは感じないわけです
[ENO] ところが、わからない人には、こう、闇夜に提灯が一つ、二つ、と灯っていて、その下に一行だけセリフがあるようなものに見える
[V-zEn] ふむす
[Banyu11th] 闇夜にちょうちん。
[ENO] その間にある暗闇の中を埋めるものがない人には「なんだこりゃ」の世界
[Banyu11th] 「お前は歌道に暗いな!」
[Banyu11th] 「ああ、角が暗いからちょうちん借りに来た。」
[V-zEn] >「包丁、どこ」
[akiraani] 「でも歌丸さんなら明るいですよ」
[V-zEn] >「あ、はい」
[V-zEn] >「まな板、どこ」
[V-zEn] >「あ、はい」
[ENO] そう、その「やり取り」だけで情景が浮かぶ人と浮かばない人がいる
[V-zEn] 見える人には楽しいですよね。
[ENO] ある意味、池波正太郎さんの文体に似ている部分があるよね
[V-zEn] そっすねえ。
[mihiro] #思わず。ばんゆーさんのギャグに、受けなかった備前さんが包丁で突っ込みを入れるのかとw
[Banyu11th] あれは、別に俺のギャグでもなんでもないんだが。
[Kannna] (笑)
[Banyu11th] 古典落語のオチの部分デスよ
[Kannna] 知らないもーん
[V-zEn] というかまあ、昔気質の小説家さんは「綺麗を綺麗と書かない」技術を磨いてきてるもんだと思ってますし。椎出さんにはそういうマインドセットがあるのではと思います。
[V-zEn] って、俺が語っちゃいかんわな(笑)
[Kannna] アタシも、ばんゆーさんのギャグと思った
[Banyu11th] そうだねぇ。書きたいことを書くのは、小説ではない。と俺も教わった。
[Banyu11th] 「小説とは、書きたいことを書かずに、書きたいことを表現するのだ」とさ。
[ENO] 「梅安さん、根深汁ができたえ」「こっちもちょうど、油揚げが火鉢でやけたところさね、こいつをコタツに入ってふうふう言いながら食おうじゃねえか」「ふふふ、まんぞくまんぞく」
[ENO] この、セリフのやり取りで
[V-zEn] #ああ、まんぞくまんぞくの一節w
[ENO] 男二人が、寒い日に何をしているのか、見える(w
[Yaduka] くそ、美味そうだな……
[ENO] ここに至るまでに、この二人の仕掛け人は、命がけの血みどろの戦いを繰り広げているのだな
[ENO] だからこそ、この「まんぞくまんぞく」の意味が光る
[ENO] これは、地の文はいらない
[ENO] この会話にこそすべての意味がある
[ENO] 見えない人には見えない
[V-zEn] 想像力と経験が試される文章だということで
[ENO] ただ、根深汁作って、油揚げ焼いて食ってるだけじゃないか,と思う人も入るだろう(w
[V-zEn] 22:35 <ENO> 椎出さんのは、実に難しい(w
[V-zEn] という言葉が最初にでたのかと。
[V-zEn] 思われます。
[ENO] つまりは、椎出さんの書くものはそういうものなのだな
[V-zEn] ですね。
[ENO] 試される
[ENO] んでもって、世の中の人は試されるのが大嫌い
[ENO] なんせ「正しい感想」とか「正しい読み方」以外は「間違った感想」とか「間違った読み方」があると思っている人が多いから
[ENO] 読み手の「素養」によって本の捉え方が変わる、ということを「それは欠陥だ」という人がいるくらいだからなあ(w
[ENO] つまりは「誰が読んでも、どんな知識や経験の人が読んでも意味が間違いなく通じるべきだ」というのだが
[ENO] 小説はニュース原稿ではないのだ
[ENO] さて、話を戻そう。俺は椎出さんの作品については、不満がある
[ENO] 欠陥と言ってもいいかもしれない
[ENO] その不満と欠陥とは、この一言に尽きる
[V-zEn] ここから内容論が始まるとは、アシスタント想像してませんでした(笑)
[ENO] 「もっと書け、読ませろ」
[V-zEn] ww
[Banyu11th] # 「正しい読み方がない」っていうのは、実は、最新の文学理論の一つだからなーw
[CHOBOJA] (そういうオチですか)
[V-zEn] まあ、このキャラの前後は欲しいですかね(笑)
講評を受けての、本人のコメント
さて、いきなり初手でレギュレーション違反をしているのにも、ちゃーんと講評がついたわけですが(笑)。まずそれが驚きだよ。
今回の文章は、椎出の書くものの中では、比較的スタンダードな仕様にしてあります。勢いだけで書いたので、あまり凝った設計にしてない、と言った方がいいのでしょうが。
で、その中でどんなことに気を遣ったかというと、これはまあ、以前『ぼくのわたしの実作手順、大公開。椎出啓の場合』で書かせていただいたのと、大体同じです。なので、例によってプロットも考えず、いきなり呼び鈴を鳴らしています。
風邪を引いたのは長曾根テツコという娘で、見舞いに来るのは銭屋碕更という少女。
今回は、すでにキャラをつくってあった(というか、出来合いのキャラを持ってきた)ので、舞台と状況が揃えば、ある程度、話が進むのはわかっていました。この二人は、揃って口ベタなので、あまり喋らない。だからいきなり台所に行ってしまう。文章を書いている時というのは、じーっと二人の様子を観察している、そんな感じでした。
ENOさんに『いわゆる「ライトノベル的描写」ではない』とか言われてしまった、卵焼き攻防戦ですが。
これは、どちらかというと最近の『萌え系4コマ漫画』のフォーマットに近いかも知れません。
描き込むタイプの作家さんでも、時として存在する、ずいぶんと白いコマ。
書かない事による、情報量の限界に挑む、って感じでしょうか。
たしかに、ビジュアルイメージを伝えるために書き込むタイプのライトノベルとは、違うやり方かなとは思います。
そんな中で『藤枝梅安』の一文を引用していただけたのは、大変ありがたいことでした。池波正太郎の中では藤枝梅安が一番好きなもので(笑)
#鬼平は老後の楽しみに取ってあります(笑)
それに、池波正太郎も、少なくともセリフに関しては、どちらかといえば『書き込まない』タイプの作家さんかとおもいますし、もの書きという点では、偉大なる先達なワケなので。
最後の『不満と欠陥』につきましては……えーと、はい、何とか善処したいと思います(笑)一応、碕更とテツコの話は、考えてはいるので。
では。
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