語る主体
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語る主体(sujet parlant)
「語る主体」とは、ソシュールの一般言語学で「ある言語の任意の話者」を意味した用語。
基本的には、ラングあるいは諸言語との関係で考えられる抽象的なモデル概念。
ここで、理解のために、少し具象化して考えるなら、「ある言語を母語として習得している任意の話者」というふうに解すとイメージし易いだろう。
このレベルの「語る主体」は、母語として習得した言語についての習慣づけを身につけているうえ、通例その言語の共時態を意識しないまま前提のようにみなしつつパロールをおこなう。
「語る主体(sujet parlant)」の集団が「語る集団(masse parlante)」。語る集団は、「ある言語を母語使用する言語共同体」と解して概ね構わないはずだ。
「語る主体」は、『一般言語学講義』では、あまり多用されていない。用いられている箇所でも、基本概念ではなく、関連概念を整理するための用語のように用いられているケースが目立つ。
このため、ソシュール言語学の初期の理解では軽視されていた。
しかし、ソシュール思想の再検討によって、「語る主体」の概念は、ソシュールの言語思想において「研究対象としての言語の焦点」あるいは、「言語を対象化しつつ整理するための視座」として重要、との理解が広まった。主に、ソシュールの草稿やメモ、生前の講義の再構成などの研究による。
関連人物や用語
関連用語
- 共時態
- 現在のソシュール研究では、共時態とは「語る主体が主観的に意識する共時性において見られる言語様態」と解す理解が主流説になっている。
- 通時態
- 現在のソシュール研究では、通時態とは「言語の共時態が、突発的に変動する際の変動様態」と解す理解が主流説になっている。
メモ
- 現在のソシュール研究では、生前ソシュールは、ラングの構造について、動態構造まで視野に入れた理解を構築していた、と解されている。
しかし「社会的事実としてのラング」を研究する学問として言語学を整理する、とのプランも持っていた。「語る主体を視座にした言語の構造理解」と「社会的事実」との間を統合する理論整備を考えていた、それがいわゆる「ソシュールの沈黙」の真相だったのではないか、とする推測も少なく無いようだ。 - 言語学者の立川健二氏は、「語る主体の意識」ではなく「聞く主体の前意識」を言語使用の視座に据えた方が、動態構造まで含めた言語の理解が深くなる、といった主旨の立場をとっているようだ。「聞く主体の前意識」は、もちろんソシュールの言語論を踏まえた上での、立川氏独自の立論(発展理論)になる。
立川健二,『《力》の思想家ソシュール』(叢書記号学的実践),白馬書房,Tokyo,1986.