月の盾

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「……日没は、嫌い…………」夕焼けは世界を押し潰す悪魔──。

 俺の妹、小夜子が事故でこの世を去ったのは五年前。蒸し暑くアブラゼミがうるさい八月十五日。怖いくらいに日没が赤い、まるで世界が焼かれていくような夕方だった。
 そして、五年後の小夜子の命日。同じように赤い空を、雲がせわしなく流れていく。周囲をアブラゼミの鳴き声に包まれる。暗くざわざわと不穏な音を奏でる森の中、上りかけた月光が優しく降り注ぐその下に、小柄で美しい少女は座っていた。
「──あなたは………だれなの?」
 少女のソプラノの声質は小夜子と似ていた。
 こうして俺は、日没を嫌い、夕焼け時に必ず眠る色なき天才少女、国崎桜花と出会った──。

岩田洋季

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