おおきく振りかぶって 1巻
『おおきく振りかぶって』1巻(アフタヌーンKC)
- 著
- ひぐちアサ
『おおきく振りかぶって』1巻は、アフタヌーンKCから刊行されている軽装版マンガ(コミックス本)。ひぐちアサ著の、高校野球を題材にした作品。
オレらのエースは暗くて卑屈。勝つために、弱気なエースのために。行け、オレら!
(単行本1巻表4コピーより)
1巻冒頭は、中学時代、野球部員だった三橋(三橋廉)が、他の部員たちに総スカンされている様子の回想から描写される。“ヤツ高等部行かねんだって!!”、“ヤッター オレ野球続けよう”、“あのヘロ球と縁 切れるのかー”などと、言われている会話を、なぜか三橋本人も知っている様子。
埼玉の県立西浦高にうかり、野球を止めるつもりでいた三橋だが、グラウンドを見に行ったところを、新生野球部の部員勧誘をしていたモモカン(百枝まりあ)に引っ張られ、新設の硬式野球部に引き込まれていく。
三橋に投球をさせてみる阿部(阿部隆也)は、三橋本人も「ヘロ球」と思っている「まっすぐ」が、実はクセ球であることと、異様にいいコントロールとを見抜く。入部希望者たちを前に「甲子園に行ける」と言い出す阿部に、「……ム ムリです……」と応える三橋。しかし、女監督モモカンは、「その弱気どうにかしなきゃマウンド登らせないからね!!」と、三橋にケツバットをくれるのだった。
- 『おおきく振りかぶって』アフタヌーンKC版 第1巻は、2004年刊行。
- 採録エピソードは、雑誌月刊「アフタヌーン」2003年11月号〜2004年3月号掲載分がメイン。
- 第1回「ほんとのエース」
- おまけまんが(1)「そのころのマネジ」
- 第2回「キャッチャーの役割」
- おまけまんが(2)「タイム発表&打順決め」
- 第3回「プレイ!!」
- おまけまんが(?)「そのころのマネジpart2」
用語や登場人物
- 西浦高新生野球部
- 埼玉県の県立西浦高校には、過去に軟式野球部しかなかった。三橋たちが入学した年に、硬式野球部が再スタート。軟式野球部の方は、百枝まりあの卒業後、数年間部員ゼロだったようだ。
- 新入生だけ10人の部員と、マネジ1名ではじまった西浦の新生野球部は、夏大会に向け、各選手が複数のポジションをこなせるシフトで猛練習をしていくことに。
- エピソード第2回「キャッチャーの役割」で描かれる合宿では、志賀が百枝に「監督を頼んで、野球部を復活させた」とも噂される。
第1回「ほんとのエース」
新入学時期の西浦高校。各種の部活やサークルが、新入メンバー勧誘をしている内、1年生で入学したばかりの三橋廉は野球部のグラウンドを見に行く。中学までやっていた野球を、高校では止めるつもりでいた三橋は、謎のジャージ女に捕まり、グラウンドに引きずられて行くが。
- 三橋廉
- 中学時代、群馬の私立三星学園中等部野球部でピッチャーだった。
- マンガは、三橋が中等部野球部で総スカンにあっていた様子の、回想から描き出される。
中学の部活で孤立していた廉は、埼玉の公立高校を受験。埼玉県立西浦高に進み、野球を止めるつもりでいた三橋だが、グラウンドを見に行ったところを、新生野球部の部員勧誘をしていたモモカン(百枝まりあ)に、捕まる。そのまま、硬式野球部に引き込まれてしまう三橋だが……。 - 性格は、気弱で自信がなく、優柔不断で卑屈。言語不明瞭なうえ、よく挙動不審になる。
(とり得は、ともかくピッチングが好きなことと、ピッチャーズ・マウンドへの執着心。努力は人一倍するが、我流の無茶なトレーニングも重ねていた。さらに言えば、無駄も目立つが全力を尽くすことはする)
- 中学野球部での三橋の孤立は、私立三星の理事長の孫であるため、実力もないのにヒイキでピッチャーを任せられた、と周囲に思われていたことが原因。(この事情は、1巻、2巻を通して描かれていく)
- 後にチームメイトの阿部は、三橋のことを「こいつが誰かを嫌うことだけはない」と考えるようになる。
- 物語の先の方では、監督のモモカンは、三橋のピッチャーズマウンドへの執着心を、かなり買っている感じの描写が断片的に繰り返される。が、三橋本人を、直接誉めるような場面は見られない。例えば、三橋母とはじめて会う場面などで、率直に誉めている。
- モモカン(百枝まりあ)
- 本名、百枝まりあ。三橋たちが入学した年に、西浦高校に新設された硬式野球部の監督。部員になる田島らが、後につけるニックネームが「モモカン」。
- 以前、西浦にあった軟式野球部のOG。新入1年生を集めて10人で部を発足させる。「監督が女なんてあり得ない」と去ろうとする花井を、名人芸のノックと、夏みかんを片手で握りつぶす生ジュース(握力の示威パフォーマンス)で威圧(笑)。
- 年齢、23歳(11巻エピソード第20回、夏大会時点)
- 第2回冒頭は、ビルの窓清掃のバイトにいそしむ百枝の描写から導入。
GWの合宿では、部員たちの間で、モモカンは、稼いだバイト代を学校から支給される部の活動費と別に、部活につぎ込んでいるらしいと、噂される。
- シガポ(志賀剛司)
- 本名、志賀剛司。西浦高の数学教師。三橋たちが入学した年に、西浦に新設された硬式野球部の責任教師(部長教師)。後に部員たちが呼ぶようになる愛称が「シガポ」。
- エピソード第2回「キャッチャーの役割」以降で描かれていくモモカンとのコンビネーションは、いい。
- 志賀本人は部員たちに「先生は野球は詳しくない」と自称するが、野球部が始動すると、マッサージや、メンタル・トレーニングなどを基礎理論から学んでいる様子が描かれる。
- 阿部隆也
- 地区ブロック1と言われたシニアチーム出身。西浦野球部では正捕手に。出身校が同窓で、シニアの別チームに属していた栄口を誘って、春休み中から新生野球部に参加。グラウンド整備などをしていた。西浦のチーム内では、野球を続けていくことに1番自覚的な計画性を持っている。性格的に仕切り屋になりがちな面も(例えば、三橋と花井の3打席勝負を仕組んで、花井入部のきっかけを仕組んだのは阿部)。三橋のクセ球「まっすぐ」と、異様にいいコントロールを最初に見抜き、「お前をホントのエースにしてやる」「そのかわりオレの言う通りに投げろよ」と三橋に告げる。
- モモカンの評価では、田島、花井に次いで、西浦野球部では3番手の選手。
- 第2回で描かれる合宿では、三橋に体幹コントロールを教えるモモカンに、全力投球をすれば、今のコントロールが維持できない、と反発。モモカンからは「阿部君は捕手をわかってないね」とまで言われ、不満を覚える。
- 第2回末尾から描かれだす三星高1年生チームとの練習試合では、三橋とバッテリーを組む捕手に。打順は3番。
練習試合開始前、三星の捕手、畠に絡まれている三橋を救う。そして、がんばっている三橋の力になりたい、と思い、“それが捕手か!!!”と、思いあたる。 - 野球では無名高の西浦には、大ばくちで入った(2巻、エピソード4回)。野球部が新設されると聞いたためらしい。
- 栄口勇人
- シニア出身(本人は出身チームのことを「弱い」と、言っている)。西浦野球部では二塁手に。同じ中学出身の阿部に誘われ、春休み中から新生野球部に参加。グラウンド整備などをしていた。
(阿部と栄口は、中学時代はシニアの試合で顔は見知っていたが、親しい付き合いはしていなかった)
- 性格的にはデリケート、あるいは神経質な面もあり、緊張すると神経性の下痢を起こすことも。
- 三星高1年生チームとの練習試合では、二塁手1番打者に。
- 田島悠一郎
- 関東中から選手が集まる、とされる強豪シニアチーム出身。チームの4番、サードを委ねられていた。西浦には、家に近いからという理由で入学。祖父の畑は西浦のグランドに隣接している。
- 小柄だが、抜群の運動能力と、野球センスを持つ。
- 西浦チームでは、サードで、控え捕手に。モモカンの評価では、素材のレベルが違う、ナンバー1選手。
- タイプとしては直感型だが、試合での集中力は高い。普段の言動も、理屈より気分でコミュニケーションする。試合中はカッコイイが、普段は、三橋とは別のタイプの子ども。例えば、ランニングでかいた汗が気持ち悪いと、グラウンドで全裸になるなどして、モモカンを怒らせ、花井を困らせるように。
- 三星高1年生チームとの練習試合では、三塁手で4番打者に。
- 花井梓
- 中学の野球部ではプルヒッタータイプの「右の強打者」として主に4番を打っていた。モモカン評価では、部員の内で田島に次ぐ素質の選手。打者としては、選球眼が良い。
西浦入学当初は野球部にこだわりを示さず、監督が女という理由で入部をやめようとする。しかし、モモカンの夏ミカン握り潰しパフォーマンスに威圧された後、阿部の策謀に乗り、三橋と3打席勝負に挑む。2打席めが済んだところで、花井が三橋の「まっすぐ」について問いただしはじめ、勝負の決着はうやむやになったが、そのまま入部。 - 中学野球部では主将を務めたことがあり、面倒見が良い。性格的にもしっかりしているのだが、年相応に素直になれない言動が目立つ。
- 三星高1年生チームとの練習試合では、センター、5番打者に。
- 母親が「高校野球オタク(花井談)」で、花井本人も県下の高校野球事情に人よりは詳しい。
- まっすぐ
- 三橋の持ち球である、ストレートもどきのクセ球。中学時代、正規の投球指導を受けないまま、自己流で投球フォームを作った三橋ならではの球。バックスピンが甘く「速度とで出しの角度がかみあっていない(叶談)」。そのため、選球眼のいい打者ほど、球の下を打ち、打ち上げてしまう。もちろん、西浦入部時期に球速101キロというヘロ球だから、慣れれば攻略の容易い球だ。しかし、阿部は、三橋の異様に精確なコントロールを見抜き、打者が「まっすぐ」に慣れない配球を組み立て、「まっすぐ」を打たせて捕る決め球に仕立てる。花井が3打席勝負で三橋に遅れをとるのも、阿部の配球のせいだ。しかし、モモカンは、三橋のコントロールのよさを「全力投球をしていないからできている」と指摘する。
第2回「キャッチャーの役割」
新生西浦野球部は、GW中に合宿をし、その仕上げとして、練習試合を組む。対戦相手は、かつて三橋が通った学園の高等部の野球部。レギュラーメンバーは遠征試合に出ているので、補欠チームでよければということで組まれた試合には、中学野球部時代、三橋をシカトしていたメンバーが多く加わっている。
- GW合宿
- 新生西浦野球部は、GWで合宿をし最終日に、三星学園との練習試合もすることに。合宿の様子は、エピソード第2回(1巻)で描かれる。
- 合宿前、野球部結成初日の様子で、読者にとってキャラクターの外見と名前が一致して把握できるように描かれているのは、三橋、モモカン、シガポ、阿部、栄口、田島、花井まで。他の部員やマネジの篠岡については、合宿と対三星の練習試合を通じて、描写が重ねられていく。
- 水谷文貴
- 中学時代は、野球部で二塁手をメインに、外野手を兼任していた。
- エピソード第2回から描かれだす三星高1年生チームとの練習試合では、レフトを守り、打順は8番。
- 性格は緩やか。弱気な発言や、気の抜けたリアクションが目立つ。三橋の不明瞭な言動の意を汲んで、皆に仲介するなど、他者への気遣いが敏感で細やかな面も目立つようになっていく。
- 巣山尚治
- 中学時代のポジションは不明。野球部に属していたかと思われるが、これも定かではない。
- エピソード第2回から描かれる三星1年生チームとの練習試合では、ショートを守り、打順は6番。
- 試合では、動揺している水谷や栄口を落ち着かせたり、対戦校選手の分析などで冷静な様子が目出つ。
- 沖一利
- 中学時代は、野球部で2年まで投手経験もあり、サウスポーだった。3年の時は一塁手に専念。
- 三星1年生チームとの練習試合では、一塁手に。打順は2番。
- 気が弱く控えめな性格。三橋同様、阿部の大声が苦手。
- 泉孝介
- 中学時代は野球部に属していた。比較的冷静な性格で、あまり物事に動じない。
- 三星1年生チームとの練習試合では、ライトを守る。打順は7番。
- 三橋、田島と同じクラスで、自然と2人の御目付け役になっていく。普段の田島のストッパー役や、周りとの会話にまごつく三橋にフォローを入れるなどするように。三橋と田島の、他の部員メンバーを疲れさせる意味不明な会話にも動じず、「俺はもう慣れた」。
- 西広辰太郎
- 中学時代は陸上部に属していた野球初心者。運動神経は良い。
- 三星1年生チームとの練習試合では、ベンチに控えて伝令などに備えていた。
- 学業成績が極めて優秀なことが、先の方(4巻で描かれることに。
- 篠岡千代
- 中学は、阿部、栄口と同窓。ソフトボール部で遊撃手だったが、高校野球への熱烈な憧れから、新生西浦野球部のマネジ(マネージャー)になる。第2回では、合宿場に向かうマイクロバスにすでにマネジとして乗車している形で登場。入部の経緯は、1巻採録の、おまけまんが(1) 「そのころのマネジ」で読める。
- 性格は、明るく屈託が無い。ともかく野球が好きだし、高校野球については、マニアックに詳しい。
- 三星との練習試合では、男子校の三星側に歓迎され、アナウンスの担当を頼まれ、こなす。この関連の描写で、スコアシートをとれるなど、野球マニアぶり(笑)の片鱗が描かれだす。
(篠岡の野球マニア描写は、徐々に詳しくなっていく。3巻では、試合観戦にオペラグラスや、対戦校の過去の対戦表を持参、制服を見るだけでどの学校か判別するなど、花井やモモカンもたじろくマニアぶり(笑)を発揮)
- 三星との練習試合
- 「西浦GW合宿の仕上げ」として組まれる練習試合の様子は、試合自体は、エピソード第3回から描かれる。しかし、エピソード第2回の終盤では、試合前の両チームの様子が描かれる。
- がちがちに緊張している三橋、三橋を軽蔑している三星の部員。そんんな内で三橋を普通に評価している叶や、逆に「今でも許してねぇ」という畠などが描かれ、阿部は三橋の努力を活かしてやりたい、と思う。
第3回「プレイ!!」
いよいよ、西浦対三星の練習試合が始まる。
エピソード第2回の末尾では、試合開始前の練習の様子などまでが描かれるが、第3回では、1回の表から、2回の裏終了時までが描かれる。
- 三星との練習試合
- 1巻所載の第2回末尾から描かれはじめ、プレイ開始は第3回からで2巻へ続く。
- 三星側は実は練習試合に乗り気でなく、正規選手のメンバーは遠征に出ている。1年生チーム相手でよければ、と受けた。実は、三橋が理事長の孫だから渋々試合申し込みを受けたというのが真相。中学時代の三橋を嫌っていたチームメイトたちは三橋がピッチャーと知ると舐めまくり、監督(おそらく留守を預かったコーチか副監督)もモモカンを女監督と侮る。ただ、三星側のピッチャー叶だけは、三橋と投げ合う試合に真剣に臨んでいた。
- 叶修悟
- 三星学園中等部野球部で控え投手だった。*新生西浦との練習試合では、第2回終盤で描かれる試合直前の場面で最初に登場。投球練習をしていた三橋に屈託なく声をかけてくる。練習試合では、叶は、ピッチャーで打順は9番。
- 三星中等部のチームでは、唯一、三橋の投球へのこだわりを理解していた部員。エピソード第1回の、三橋が中学時代のことについて西浦のグラウンドで語る場面で、回想的に目鼻立ちまで唯一描かれるのが叶。
- 畠篤史
- 三星学園中等部部野球では、正捕手として三橋とバッテリーを組んでいた。ヘロ球の三橋より叶の方が、上のピッチャーと信じ、三橋ヒイキ説を唱える急先鋒だった。正ピッチャーの位置を頑として譲らない三橋に、中学時代の終盤、試合ですら手を抜くようになった選手の1人だったのが畠(と、いうより試合での手抜きも率先していた様子)だった。
- 新生西浦との練習試合では、第2回終盤で描かれる試合直前の場面で叶の次に登場。叶に声をかけられた三橋が、自分でも疚しいところがあって逃げ出した後を追ってくると、腕でも折んなきゃわかんねーか、と脅しをかける(そこにやってくるのが阿部)。試合では、畠は、キャッチャーで打順は5番。
- 織田裕行
- スポーツ留学で、関西から三星高等部に入ってきた生徒。西浦との練習試合は「中学時代の因縁を知らん奴には燃えない」的に思っていた。が、三橋のクセ球を、いち早く「なんとなく気持ち悪い」打ちづらい球と気づく。その話題をきっかけに、叶が投手として三橋に負けていると思っていた、と本人の口から聞き、困惑する。
- 練習試合では、織田は、外野手、打順は4番。
- 用語や人名
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- アフタヌーンKC
アフタヌーンKC2004年刊行
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