基本のキホン!

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ひぐちアサ

『基本のキホン!』は、ひぐちアサのマンガ作品。

おおきく振りかぶって』の、番外編的な読みきり作品(58頁)。雑誌月刊「アフタヌーン」2003年6月号に掲載された。
本編の連載開始前に発表された作品で、本編に対する独立性は比較的高い。

アフタヌーンKCから出ている、単行本『おおきく振りかぶって』3巻に採録されている。

『基本のキホン!』では、武蔵野第一高校野球部で、まだ1年生だった時期の榛名元希と、1学年上級の投手、加具山直人の関係がメインに描かれる。

物語の時制
物語の時制は、本編で西浦高校に新生硬式野球部が発足する年の前年度。新人戦の直後、秋大会の前頃。
2年になり背番号1をもらった加具山は、新人戦で3回までに6点をとられてしまう。リリーフ交代した榛名の投球を見て、加具山は、野球を続ける気を喪失していた。
作品構成
『基本のキホン!』は、片始まり58頁で、2頁め-3頁めの見開き構成がタイトル頁(タイトルは、単行本では、見開き右頁の下部にヨコ組で配置されている)。

用語や登場人物

加具山直人
武蔵野第一の野球部員、『基本のキホン!』時点では、2年生で背番号1の正投手。ニックネームは「カグヤン」。球速は120kmそこそこだが、カーブとスライダーを持っている。
新人戦に1回から登板したが、3回までに6点を奪われ、1年生だった榛名と交代。榛名のピッチングをみてすっかりやる気をなくし、野球部退部も考えている頃から物語は始まる。
作品序盤(冒頭の回想的画面の後)、加具山は、野球部の練習が終わった後、筋トレなどの自主練に励む榛名につき合う。しかし榛名のペースに併せようとした加具山は、途中で気持ち悪くなりダウン。“ファミレスにもつきあわずこんなことしてたのか”と思う加具山に、榛名は「ダラけるの/やめる気になったら言っときますけど/オレのマネしてねーで自分用のメニュー考えてくださいよ」と告げる。「年間通して考えねーとダメすよ」と言われ、加具山はあっけにとられる。
「……大河先輩になんか言われたんスか」と、加具山に尋ねる榛名の言葉をきっかけに、画面は昼の練習時の回想に移る。
回想では、練習時に、榛名が主将の大河と起こしたいさかいのことが描かれる。この時、大河は、榛名に正捕手の町田と組むよう指示、加具山には控え捕手の秋丸と組んでそれぞれ練習するよう言う。榛名が一日80球しか投げない、自分の投球制限のことを言い出すと、かっとした大河は、榛名に蹴りを入れた。マネジの宮下涼音は、大河を指導力不足と非難。榛名がベンチに連れて行かれた後、大河は、加具山に「……カグヤン!」「お前が投げんだぞ!」と告げたのだった。
  • 昼の練習の回想場面の少し後、意図不明の話を続ける加具山に、榛名は、先輩、なんなんすか! と、訊く。榛名の言葉をきっかけのようにして、「オレ/部活やめるから」と加具山。
    「マジメに話してくださいよ」「何考えてんか知らないスけど/オレ80球しか投げませんよ」と言う榛名に、「一試合に足んねーぶんくらい大河が投げんだろ/心配いらねーよ」と加具山。「何言ってんスか?/投手はあんたでしょ?」と、榛名。「投手なんかもうやりたくねェ/部活もやりたくねェ/やめてバイトと塾通いすんだ!」と言う加具山に「……は?」と唖然とする感じの榛名。加具山が「今までのがおかしいんだよ! 野球ばっかやりすぎで!/もうオレあ野球やめるんだ!」と大声を上げ「もう野球に疲れたんだよ!!」と続ける。このあたりで、たまたまフェンスの外にいる大河の耳に、グラウンドでの話が聞こえてしまう様子が挿入される。
    • 加具山は、なぜ、野球部をやめるか訊いてくる榛名と問答していく内、武蔵野第一野球部のことを「県内の下位一割に入る」と言う。「オレら 中学で補欠だったヤツばっかだぜ?/わかってんの?」とも、「ここでやってんのは/高校野球全敗の覚悟のある人ばっかりなんだよ……!」とも。「…………んなわきゃないでしょ」と言う榛名に、加具山は「−−お前/浮いてるよ」と、言う。
    • 試合のポジション争いも、なんでやる前から負けと決めてるのか? と、訊く榛名に、加具山は「決めてるわけじゃねーけど/だって……/……オレ公式戦勝ったことないし」と応える。「言っとくけど初戦で半分負けんだからな/弱いチームにいりゃめずらしくねんだよ(つーかこのチームだってもー3年くらい勝ってねーぞ)」とも。さらに加具山は「そーゆーヤツがマジで勝ちを目指すのって/恥ずかしいもんだぜ」と続けるが、榛名にはこの言葉が理解できない様子。「は?/は………/恥ずかしい?/−−ってどーゆ……」と訊く榛名に、加具山は「え」と戸惑いながら「ん〜〜……と/ファッション雑誌買うときの恥ずかしさと似てるよ」。さらに「???」となる榛名。加具山は、「だからさ!/お前 ソレ買ってどーする気だ このイガグリチビ!/みたいなー」と言い、「説明させんなヨ……むなしくなるから……」と続ける。
      逆に加具山の方から榛名に「具体的な目標ってどの辺なの?」と訊くと、「プロを目指してる」と応えられる。県大会の何回戦まで目指しているのかを訊いたつもりの加具山は、あっけにとられた後、「お前くらい才能あると見える世界違うのかね」と言ってしまう。
  • 榛名が、加具山に「こっから先は人に言わないで欲しんスけど」と言うのをきっかけに、行きがかりから盗み聞きをしていた大河と宮下涼音が、おずおずとグラウンドに。軽くすったもんだする一幕を挟み、榛名は、自分の中学野球部、シニアチームの体験談を語りだす。話を聞いた加具山は、「いい経験してんね/きっと辛くなった時は/中学ン時の仲間思い出せば/乗り越えられるんだろーね/オレにはそんなカッコイー経験ないもん/自慢にしか聞こえない」と言う。この時、榛名の横顔のカットが入るが、加具山のセリフが一区切りすると同時に、大河が腰を浮かせながら「……っ/あのなあ!カグヤン」と大声を出す。
    • 大河に「高校野球全敗の覚悟だって」「オレァねえよ!!!」と言われた加具山が言葉に詰まると、榛名が唐突に「…………/加具山先輩/50m何秒スか」と訊ねてくる。「え……」と加具山が口ごもると、榛名は宮下涼音から加具山のタイム(7秒5)を聞き出し、タイムが同じだから「どスか一本勝負」と言い出す。加具山は乗り気ではないが、大河が乗り気になり、競争をすることになっていく。
    • 成り行きで榛名と50m走を競うことになる加具山は、スタート直前、宮下涼音から今の体重を聞かれ、3kg落ちてると答える。涼音は、榛名は体重が重くなってると、加具山にささやくが「ただしカレも負ける気ないみたいだから」と続け、“全力でね”と告げる。涼音に耳打ちされた加具山は“全力でやれば”“こいつに/オレが!?”と思ってレースに臨む。
  • 河合の合図でレースをする加具山だが、スタートのいい榛名にぐんぐん引き離されていく。
    • レースが終わり“クソ−−!!!”と涙を滲ませている加具山に、涼音は、「加具山君6秒8」とタイムを告げる。1秒近く自己ベストを縮めた加具山本人も驚くが、涼音も驚いている。
    • 「……え!? じゃ榛名は!?」と訊く加具山に「6秒2」と涼音。「マジで!?/すっごいのびてんじゃなのソレ!?」と訊く加具山に、涼音は「あのね」「榛名の記録は/もともと6秒台前半なの」とタネ明かし。「一種のプラシーボ効果」で加具山のタイムが良くなった、と聞かされ、加具山本人は「−−−−へ?」と呆気にとられる。「じっ自分のコト/50mのタイムすらわかってないこと」「わかったスか!?」と榛名。
      「先輩」「“ホントに野球”/“止めたいんスか?”」と榛名に訊かれ。絶句する加具山。その後も、いろいろ言い続ける榛名を「わかった」と、加具山は止め、「もうわかったよ」と応える。
  • 「もうわかったよ」と言う加具山は、「オレやめたいんじゃないんだ」「オレは/勝ちたいんだ!」と、語る。
    • 1コマの間を置いて「−−だいたい」と、榛名は加具山に顔を寄せ「勝ちっつーエサなしでこの重労働続けてきたなんてね!」「あんた そうっとお野球スキだっつの!!」と言うが、思わず顔を赤らめ「…………/わかったすか!?」と締める。「言ったヤツがてれんなよ」と、何故か加具山も顔を赤らめてしまう。
    • 予定外に遅くなった涼音を送っていくという大河が、去り際「カグヤン! 明日来んだろ!」と声をかけると、加具山は、顔を赤らめたまま、無言で片手を挙げて返事にする。「んじゃなー!」と大河が、「今日はホントごめんねー!」と涼音が去って行くと「こっちこそ逢い引きのおジャマしましたー」と、加具山。
    • 加具山と大河のやりとりに「え?」「え!?」と声を出す榛名に、「……あー/知らなかった? あいつら付き合ってんの」と加具山。
武蔵野第一高校
作中の埼玉県では、野球部は弱小な学校。過去、野球部は、大会に出場するたびに初戦負けだった。(本編では、野球よりもサッカーで有名、とのセリフがみられる)
  • 作中、加具山は、榛名に、武蔵野第一野球部のことを「県内の下位一割に入る」で「オレら 中学で補欠だったヤツだっかだぜ?/わかってんの?」と言う。
  • 作品中盤で榛名の話を聞いた後、大河浩宣は加具山に、自分にも才能はないだろうけれど「高校野球全敗の覚悟だって/オレァねえよ!!!」と告げる。
  • 本編で初登場する時点での武蔵野第一野球部は、春大会では、県下ベスト8に入るところまで躍進(ベスト8入りは、『基本のキホン!』の物語より後のこと)。
榛名元希
『基本のキホン!』時点では、武蔵野第一の野球部1年生。中学時代、学校の野球部からシニアチームに移り、活躍、注目されていたサウスポー投手。美丞大狭山高校など強豪校からの誘いを蹴って、野球は弱小の武蔵野第一に入学。それがどういう目論見の選択だったかは、『基本のキホン!』の作中、榛名自身の口から語られる。
『基本のキホン!』は、作品冒頭の回想的描写(加具山による新人戦の回想のように思える)の後、夕方の練習後、筋トレなどの自主錬に移る榛名と、それに付き合う加具山の様子が描かれる。
榛名ははじめ、自主練につきあった加具山が、あれこれ話しかけてくるのを、主将の大河に言われ、昼の揉め事のフォローをしようとしてると思ったらしい。「……大河先輩になんか言われたんスか」と加具山に訊き、それがきっかけで、昼の練習の回想に
回想で描かれる昼の練習の時、大河浩宣から、正捕手の町田祐樹と組むよう言われた榛名は「一試合で80球しか投げない」約束を確認。怒った大河と、トラブルを起こしていた。
回想を挟んで、榛名の問いに加具山は「あんなん/気にすることないよ」と言い、にもかかわらず、ポイントの定かでない話を続ける。そんな加具山に「先輩/なんなんすか!」と、苛立つ感じの榛名が訊くと、加具山は「オレ/部活やめるから」と告げる。
  • 榛名は、加具山に、なんで部活をやめるのかと訊いていく。「でも……正直 今の練習だと余裕あんでショ?/先輩やりゃあまだ速度出ますよ」と、加具山の言うことが理解できない様子。その内、加具山に「お前くらい才能あると」と言われ、一瞬、怒りを覚える。“このやろおお!!!/ぶっこわれんの怖いなんてやってないヤツのセリフだってわかんないのか!?/オレの努力ついさっき見たクセに/なんで才能とか天命とか言えるんだ!?”。が、直後に加具山が、やめたいとか考えたのがはじめてなんだ、と気づく。“そうだ/この人今はじめてグラついてんだ/オレの中2ン時みたいに”(榛名自身は、中学野球部で故障した時に、荒んだ時期があった)。
    榛名は、加具山と2人だけの夜のグラウンドで「こっから先は人に言わないで欲しいんスけど」と切り出すが……。そこに、「ちょっと待った」と声をかけながら、物陰から大河浩宣と宮下涼音が姿を現す。腹を立てる榛名だが、涼音に可愛いポーズで「わたしも/聞きたいの……」と言われると、「たいした話じゃないスよ?」と、語り始めてしまう(笑)。
  • 榛名が、武蔵野第一を選んだ理由は、グラウンドが学校に隣接していて、ある程度トレーニング設備もあり、監督が不熱心な点だったと言う。
    • 「監督が不熱心」という条件に首を傾げる感じの上級生たちに、榛名は「ここだけの話っスよ 根に持ってるみたいのカッコワリーから……」と、前置きしてから話を継ぐ。榛名は、中学時代、野球に詳しくない部長教師の指導で、オーバーユースして半月板を損傷。しかも故障の後はほっぽられ、1人でリハビリをし、復帰後も無視された。その時は腐りまくって野球を止めようとも思った。が、部の仲間がシニアに行けと言ってくれて、シニアで立ち直ったと、言う。
      「シニアではスゲーいい経験さしてもらったけど/…………/多分 オレ/部活ってモンに/特殊な思い入れあんスよ/だから/浮いてんのヤなんスけど/どーすりゃいいのか」と語る。
    • 自分の話を終える榛名は、加具山から「自慢にしか聞こえない」と言うが、大河が「こいつが毎日一人で居残んのは全部いー思い出のおかげか!?」とまくし立てるのを、キョトンとした顔で聞く。
  • 大河が加具山に「高校野球全敗の覚悟だって」「オレァねえよ!!!」と告げ、加具山が口をつぐむタイミングで、榛名は加具山に50m走の一本勝負を持ちかける。
    • 榛名は「加具山先輩/50m何秒スか」と聞くが、加具山が「え……」と口ごもると「マネージャー知ってますか」と宮下涼音に話をふる。7秒5と聞くと「へえ/オレ同じっす」と応え、「どスか一本勝負」と持ちかける。「なんで?」と訊く加具山に、「タイム一緒なんだから先輩にも可能性ありスよ」と榛名。河合も脇から「おーそーだよ!/そんなら恥ずかしがらずに勝ち目指せんだろ!」と煽る。加具山は「だからって/ンなコトしてなんになるんだっ」と乗り気薄だが、河合と榛名が勝手に盛り上がり、強引にレースをすることに。
    • レース直前、宮下涼音にストップウォッチを預ける榛名は、何かを宮下に耳打ちする。
  • 榛名と加具山は、大河の号令でレース。榛名はスタートから加具山をぐんぐん引き離していく。
  • レース後、宮下に告げられた自己タイムが速くなってることに驚く加具山に、榛名は「じっ自分のコト/50mのタイムすらわかってないこと」「わかったスか!?」と決め付ける。「先輩」「“ホントに野球”/“止めたいんスか?”」と加具山に訊く榛名は、「−−投げたり」「打ったり/走ったり」と続ける。「円陣組んだり/試合振り返ったり」「スパイク磨いたり/帽子の型気にしたり」「バット選ぶのにマジでケンカになったり/部室で大量のゴキブリ見たり 夏だつーのに長袖ズボンで なんかのヒョーシにフン水みたいに吐いたり…」と、続ける榛名を、加具山は「わかった」と、止める。
  • 榛名は、本編で、西浦に新生野球部が発足した年の春大会では、新聞などで球速144kmと騒がれる。が、「本人はそんなもんじゃねぇ」と豪語。実際、キャッチャー側に後逸の恐れがなければ、さらに早い速球を楽々投げれる様子も、本編の方で描かれる。
宮下涼音
武蔵野第一の野球部マネージャー。『基本のキホン!』時点では、2年生。
作品には、練習の後、加具山に「みんなと一緒に帰んなかったのー?」と声をかけて登場。加具山は「まだいたの」と、榛名は「毎日 片付けご苦労様です!」と挨拶。
涼音が「榛名はまた一人で自主練?/いつもエライね」と声をかけると、脇から加具山が「ニッコリにだまされんなよ 1年!」と口を挟む。涼音はにこやかな顔のまま「…………」「え?」「今 笑顔がカワイイって言った?」と返すが、加具山は「そーゆー奴だからな」と、相手にせずジムに向かう。
このように可愛い外見だが、自分でもそれを知っていて、うまく利用するような言動が目立つ。同学年の野球部員に、性格は見抜かれているが、『基本のキホン!』の頃、下級生にあたる榛名は憧れていた様子。
(宮下は、実は、部長の大河と付き合っていてるが、はじめ榛名は、そのことに気づいていない)
宮下は、部活が終わり、いったん帰宅して入浴。風呂上りに体重を量り、“減らないもんだなァ”“男どもはみんな目に見えてヤツレてってんだけどなァ/あんだけ食べててサ”“やっぱハンパな運動量じゃないんだな”“そんだけでもかなりかっこいーんだけどサー”と、思う。
その後、宮下はガストにいる大河に携帯をかけ、「私も昼のコトについて言−たいんだけどっ」と呼び出す。(涼音は、大河に対し、絞めるとこはきっちり絞めてる様子)
  • 宮内鈴音は、大河に指定した待ち合わせ場所、ファミレスの裏門あたりに自転車でやってくるが、フェンスの向こう側では、加具山が榛名に「もうオレあ野球やめるんだ!/もう野球に疲れたんだよ!!」と、叫んだ少し後のタイミングで大河に合流。いきなり両掌で口をふさがれると噛み付いて「息できないでしょ息!!」と文句を言う。
    • 涼音と大河は、成り行きもあって、グラウンドで加具山が榛名にぶちまける本音をフェンスの外に座り込んで聴いていく。加具山の「オレはやめる」の言葉を聞きながら、両拳を握り締め、うつむく涼音。
    • 涼音は、「公式戦に勝ったことねーし」と言う加具山に、榛名が「マジすか!」と応えるのを聞いて、小さく「あっ/バカ…」と呟く。
    • 涼音は、加具山が、実力もないのに頑張ることの恥ずかしさについて、榛名に「ファッション雑誌を買うときに似てる」と説明するのを聞き、かみ殺すように笑いをこらえる。
    • その後、榛名が加具山に「こっから先は人に言わないで欲しいんスけど」と言うのを聞き、“え!?”と反応。さすがにマズいと思ったらしく、わたわたと大河とアイコンタクトしてから、大河の後に続いて「ココ……コンバンワ」と、榛名、加具山の前に姿を現す。
    • いつから話を聞いてたか訊ねる加具山に、涼音は「……部のレベルの話あたりから」と答え、榛名は、大河に「許せねえ」とわめく。大河は話の続きを聞いたらまずいか、と榛名に言うが答えたくないと応じられる。涼音が割って入り「あの……ホントに悪かった/あやまるのも白々しいけど」「なんとかつぐなわせてもらうから」「だからその…」「わたしも/聞きたいの……」と可愛いお願いポーズ。加具山は“ああっそんなポーズで許しちゃうのかよっっ”と思うが。榛名は生唾をひとつ飲み込んで「−−別にたいした話じゃないスよ?」と許してしまう。
  • 榛名の体験談を聞き終わった後、加具山は成り行きで榛名と50m走を競うことになる。涼音は、「宮下先輩ストップウォッチ頼みます」と榛名に頼まれ、いいよ、と引き受けるが、時計を手渡される時に「……それと」と、何かを耳打ちされる。
    • 宮下涼音はスタート直前、加具山に「今 体重何キロ落ちてる?」と訊く。3kgくらいと聞いた涼音は、「50mは春 計ったタイムでしょ? 3キロぶん速くなってるよ」「榛名は/重くなってるよ」と、加具山にささやくが。「ただしカレも負ける気ないみたいだから」と続け、“全力でね!”と告げる。
    • レースは榛名が勝ったが、計測していた宮下は、横になってる加具山に「加具山君6秒8」と伝える。加具山は驚くが、宮下も驚いている感じの表情。
      加具山に榛名のタイムを訊かれ「6秒2」と教える涼音は、驚く加具山に「あのねっ/榛名の記録はもともと6秒台前半なの」と種明かしをする。「えええ!?」と奇声をあげる加具山に、「一種のプラシーボ効果狙ったんだってさっき」と涼音。「体重の話もそう言えって榛名が……/そしたら」「加具山君の記録が/ホントに良くなったの」と、涼音が続け、「−−−−へ?」と加具山。
大河浩宣
武蔵野第一の野球部主将。『基本のキホン!』時点では、2年生。榛名とは、たいへん相性が悪い。榛名が入部して2日めからケンカしてた、とは加具山の回想。
昼の練習で、榛名に正捕手の町田と組むよう言ったところ「一試合80球」を持ち出され、「んなにもったいなきゃ投げねーでいいーよ!!」「つーかぜってえ投げさせねえからなあ!!」とキレる。その時、思わず蹴りを入れたことを、宮下から「統率力不足」と批判された。
  • 大河は、部活をあがった後、ファミレスで同学年の部員たちからも、榛名への態度にクレームを受けたらしい。そこに宮下涼音からの携帯が。“これ以上おこられんのヤだなァ”と、思うが、ファミレスの裏門あたりで落ち合う、と涼音に言われると、「はい」と応えてしまう。
  • 大河が涼音との待ち合わせ場所に行くと、フェンスの向こうのグラウンドでは、加具山が榛名に「もうオレあ野球やめるんだ!/もう野球に疲れたんだよ!」と叫んでいるところだった。そこに涼音がやってきて、大河は、とっさに、声を出さないよう、涼音の口を塞いでしまう。
    • 大河と涼音は、成り行きもあって、グラウンドで加具山が榛名にぶちまける本音をフェンスの外に座り込んで聴いていく。加具山の「オレはやめる」の言葉を聞きながら、膝を抱え込んで顔を付してしまう大河。
    • 大河は、グラウンドで「なんでやる前から負け決めてんスか」と榛名に言われた加具山が「決めてるわけじゃないけど/だって……」「……オレ/公式戦に勝ったことねーし」と言うのを聞くと、膝を抱えたまま“いって〜〜”と思う。
    • 大河は、加具山が実力もないのに頑張ることを恥ずかしいと言い、「ファッション雑誌を買うときに似てる」と榛名に説明するのを聞いて、笑いをこらえながら“オレはわかるゾ!”と思う。
    • その後、榛名が加具山に「こっから先は人に言わないで欲しいんスけど」と言うのを聞くと、“え!?”と反応。わたわたと涼音とアイコンタクトしてから、「ちょっと待った」と2人で、榛名、加具山の前に姿を現す。
    • いつから話を聞いてたか訊ねる加具山に、涼音は、部のレベルの話あたりからと答え、榛名は、大河に「許せねえ」とわめく。大河は「イヤごもっとも」と言うが、「ざっけんな!!!」と榛名。大河は引かずに「しかしまあナゼお前がウチなんかへ来たのかはオレも疑問だった/人に言うなっつー前提だったけどやはりそれは」「聞いたらマズイんだろーか?」。榛名は、答えたくないと応じるが、涼音が割って入り、なんとかつぐなわせてもらうからと、可愛いお願いポーズで「わたしも/聞きたいの……」。加具山は“ああっそんなポーズで許しちゃうのかよっっ”と思うが。榛名は生唾をひとつ飲み込んで「−−別にたいした話じゃないスよ?」と許してしまう。
  • 大河は涼音のとりなしもあって、加具山と共に榛名の語る中学野球部、シニアチームの体験談を聞く。話を聞いた加具山が「自慢にしか聞こえない」と言った直後、大河は腰を浮かせながら「……っ/あのなあ!カグヤン」と大声を出す。 榛名を指差しながら「こいつが毎日一人で居残んの全部いー思い出のおかげか!?」と大河。「才能あるからか!?/あーそーだとしてもだよ!!」「オレだってンなもんねーけど!」「高校野球全敗の覚悟だって」「オレァねえよ!!!」と、まくし立てる。
    • 大河は、昼の練習時の榛名との衝突以前から、榛名とは相性が悪かった(加具山と榛名の会話で回想的に言及される)。が、榛名が語る中学時代からの話には、何か“感じるトコロ”があったらしく、榛名が加具山にもちかける50m走の競争には大乗り気。「それなら恥ずかしがらずに勝ち目指せんだろ!」と、積極的にけしかける。
  • 加具山と榛名の50m走が終わり、「オレは勝ちたいんだ」という加具山の言葉が聞かれた後、大河は、思い出したように「オイ涼音 時間平気か」と訊く。「オット」「ありゃヤバイわ」という涼音に、大河は「チョイわりー/オレ送ってくるから」と、加具山、榛名に言葉をかける。
秋丸恭平
武蔵野第一の1年生野球部員。
『基本のキホン!』では、回想シーンにのみ登場。大河浩宣に、今日から加具山と組んで練習するよう言われる(榛名と町田を組ませるため)。
町田(町田祐樹)
武蔵野第一の野球部員。正捕手。
『基本のキホン!』では、回想シーンにのみ登場。大河浩宣に、今日から町田と組んで練習するよう言われた榛名は「秋からおれエースっすか」と訊くが、大河は、そんなんじゃねーよと応える。そこに町田が「大河ちっとだまってろ」と出て、「そーゆーコトなの/公式戦で組むのはオレらなわけ」と告げる。
用語や登場人物

関連事項

関連事項
解説

メモ

タイトルについて
  • タイトル「基本のキホン!」は、おそらく、読みきりの全編を通じて加具山直人が腑に落とす「高校野球をやる気持ちや意気込み」を示唆している、と思われる。
作品構成
『基本のキホン!』は、片始まり58頁で、2頁め-3頁めの見開き構成がタイトル頁(タイトルは、単行本では、右頁の下部にヨコ組で配置されている)。
  • 作品冒頭が加具山の回想的心中モノローグではじめられ、タイトル見開き(2頁め-3頁め)の左頁左端からが、物語メインボディの今にあたる、「新人戦直後の日の部活練習後」に入る。
  • ラスト7頁分(52頁〜58頁)に加具山の心中モノローグが断続的に多用されている。
    • 52頁-53頁の見開きは、物語メインボディの今、にあたる「新人戦直後の日の部活練習後」の時系列最後の時点。
    • 54頁は、「(物語メインボディの今)の翌日から」の様子のコラージュ的描写。
    • 55頁〜58頁は、秋大会初戦の日の描写。
  • 作品冒頭の加具山のモノローグと、作品末尾で断続するモノローグとの効果で、加具山は、小説で言う「視点人物」であるかのような印象が強く演出されている(実際は、加具山が臨場していない場面のシーンも差し挟まれているが、短い)。
    語りの構造としては、物語は、秋大会初戦が武蔵野第一野球部の勝利で終わった時点からの回想であるかのように読める。

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